この文章は、私が以前勤務していた熊本市内の桜が丘病院の広報誌に掲載した「解離よもやま話」というシリーズをもとに、若干の修正を加えて編集し直したものです。そもそも私の専門分野は文化精神医学という非常にマイナーな領域で、その中でもさらに珍しいシャーマンの調査研究が主たるテーマでした。津軽、沖縄、アフリカでの10年余りのフィールドワークを通して50名以上のシャーマンと会い、憑依やトランスもたびたび目にしてきました。そうしたこともあって、精神科の臨床では解離性同一症DIDや複雑性PTSDといった重症の解離性障害の治療に従事する機会が自然に増えたように思います。それらの経験をもとに思いつくまま書いてみたのが前述の連載ですが、あらためて通して読むと解離症状に悩む多くの患者さんにとって少しは役に立つかもしれないなと感じました。講義のようにまとまった知識を与えるものではもちろんありませんが、これを読んでいくらかでも皆さんの参考になればと思い公開することとにします。