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第4話:解離能力と超能力

 第2話では解離と憑依の関係について少し触れましたが、今回は超能力というさらにより一層非科学的でオカルト臭い話題に、思い切って踏み込んでみようかと思います。とはいっても、話は意外に身近なところからで、熊本出身の人物が登場する100年ちょっと前に起きたある事件に遡ります。

 明治43年(西暦1910年)の晩夏、東大や九大の総長を歴任した山川健次郎、日本の精神医学の草分けともいわれた東大精神科2代目教授の呉秀三、京大精神科の初代教授であった今村新吉ら当時のそうそうたる学者らを立会人に、東大で変態心理学(今でいうところの異常心理学)を研究していた福来友吉助教授による透視実験が3回にわたって東京で行われました。実験の結果は成功とも失敗ともどちらともいえないようなものでしたが、世間は千里眼ブームに沸き、以後次々と千里眼を名乗る者たちが現れます。最終的に、福来は詐欺を疑われて大学を退官することを余儀なくされ、事件は一気に終息を迎えましたが、その渦中で被験者となったひとりの若い女性が熊本でひっそりと自殺を遂げました。

 今日のオカルトファンなら、映画「リング」に登場する貞子の母親のモデルといわれた御船千鶴子のことだとすぐにピンとくるかもしれません。千鶴子は現在の宇城市不知火町松合の開業医の家に生まれ育ちました。家族に伝わる話では、15歳の頃に庭の梅に虫がたかっているのを離れたところから透視してみせたり、海で紛失した指輪の在り処を当てたりしたのが最初だったといいます。その後、義兄に当たる清原猛雄の訓練を受け、その才能を一気に開花させます。そして、常陸丸事件や万田鉱の鉱脈を言い当てるに及んで、その評判は東京にも伝わり前述の透視実験に至ったというわけです。

 では、千鶴子ははたして巷間(こうかん)に噂されたような超能力者だったのでしょうか。派手なエピソードを別にすれば、千鶴子の日常は松合の実家の医院と熊本の本山町にあった清原家の座敷で、日々患者の相談を受け治療に従事する毎日だったようです。熊本ではこうした霊能者を今でも「まっぽしさん」と呼んで利用する人たちがいますが、彼らはいわゆる沖縄のユタなどと同じ口寄せ系の歩き巫女(みこ)の末裔で、学問的には啓示型シャーマンに分類されます。つまり、トランス状態で超越的存在と交流し、その能力をもって様々な事柄をいい当てたり病を癒したりすることを生業とする者たちなのです。

 そして、このトランスに入る能力こそが実は解離と深い関わりがあるのです。というか、解離能力とはまさにトランスに入る能力そのものであると言い換えてもさして大きな違いはないかもしれません。その能力はある程度訓練することも可能ですが、基本的には生まれ持った才能のようなものです。さらにいえば、催眠感受性や空想傾性などとも関連があるといわれています。本物の超能力者には私は一度もお目にかかったことはありませんが、優れた解離能力を持つシャーマンならこの世の中にたくさんいます。彼らはいにしえから人間社会にとって必要とされてきた存在だったのです。

御船千鶴子の墓がある六地蔵公園近くから望む松合の集落と不知火海
御船千鶴子の墓がある六地蔵公園近くから望む松合の集落と不知火海

【参照文献】
・光岡明著:千里眼千鶴子.河出文庫,2010.